大都会の闇にそびえる高層ビルの群れ。その
裏町の路地裏のゴミ収集所に、３人の淋しい
吸血鬼が集まっていました。彼らは自分たち
の存在が人間に知られないよう、細心の注意
を払って都会の片隅でひっそりと暮らして来
たのですが、20年ごとの移動という戒律に従
って、慣れ親しんだこの街を去らなければな
りません。しかし、酒場のマスター織田耕作
には内縁の妻の美枝子が。私立探偵の羽柴薫
には実の娘のように慈しんで育てて来た朋子
が。そして夜勤のガードマン岡崎慎太郎にも
糟糠の妻の福美がいます。彼らは悩みます。
突然いなくなるか、嘘をついて出て行くか、
それとも本当のことを打ち明けるのか……。

この物語を思いついたきっかけは、かの手塚
治虫先生の著述の中にあったいくつかの歴史
的考察のひとつに「日本のお伽噺に登場して
くる鬼は実はロシアからの漂流者ではなかっ
たか」という内容を見つけたからでした。確
かに巨体、金髪、赤ら顔など正に白人的特徴
そのものです。当時、彼に遭遇した日本人は
恐怖に震え上がった事でしょう。つまり妖怪
などというものはこの世には存在せず、人間
の恐怖と無知が産み出した産物なのではない
かと。そういう視点から、人間の長い歴史の
中で無用の差別を受け迫害されて来た異端の
人々が吸血鬼だった可能性は大いにあると思
うのです。この事をヒントに、僕なりの想像
力を駆使して書いた物語。愛着の多い作品で
す。

羽柴薫/田窪一世
織田耕作/豊島歩
岡崎慎太郎/南進也
岡崎福美/鶴屋紅子
霧島美枝子/河合雪絵
羽柴とも子/原田愛
漆川恭子/大嶽典子
大島茜/河野まとい
ダブルスーツ/奥田隆一
赤シャツ/時任盛二郎
麻耶/原田愛
瑠奈/河野まとい
美樹/荻野りおな
裕二/浜田駿
美穂/河合雪絵

作・演出/田窪一世
装置/向井登子
照明/高円敦美
音響/中村光彩
振付/田中杏奈
小道具/高津装飾美術
舞台監督/本郷剛史

撮影/槇貴雄
絵/小松修