story
昭和初期に建てられた古い洋館。戦後アパー
トに改築されたその一室は、天井を塞がれ無
用の長物となった大きな階段にスペースを占
領されていた。その部屋の住人、劇団研究生
の杉本伸也は27歳。親の反対を押し切って舞
台の世界に飛び込んではみたものの、最近自
分の将来に不安を感じている。父親との約束
の5年もあとわずか。ある深夜、誰も降りて
来られるはずのない階上から謎の青年が現れ
て告げる。「俺はお前の心の中からやって来
たんだ」青年は続ける。「お前が出来ないこ
とを俺が代わりにやってやるよ」狼狽える伸
也を尻目に青年の行動は暴走して行く。
episode
初めてこの作品を書いた時はまだ40歳前でし
た。改めて読み返してみて、クオリティはと
もかくもやはり勢いがある。そういう意味で
は「黒いスーツのサンタクロース」と双璧を
成すと言った感があります。還暦を目前にし
た今の僕には、もう絶対に書けないタイプの
作品だと思います。それに自身のオリジナル
作品の中でもベスト3くらいに気に入った物
語です。30歳若かったら二人の主人公のどち
らも演じてみたい役です。
cast
杉本伸也/数井翔太朗、澤井周太
杉本勲/田窪一世
杉本弘子/えんだ勝美、鶴屋紅子
樋口夏子/奥平麻美、岩村水咲
篠田久美子/佐藤美月、河合雪絵
吉沢里香/細川明里、車谷芽維
加納真紀子/村田江里夏、細野谷季恵
曽我繭子/斉藤知里、箕輪菜穂江
平山真美/まのさゆみ
謎の青年/平河司、豊島歩
staff
作・演出/田窪一世
装置/向井登子
照明/高円敦美
音響/長柄篤弘
舞台監督/本郷剛史
撮影/槇貴雄
絵/小松修
review
▶︎座キューピーマジックの公演は、毎年末見
させてもらっているが、毎回感動している。
本作もその期待を裏切らなかった。今年観劇
した公演の中でも優れもの。脚本、演出、演
技、舞台美術という芝居の主要要素全てにお
いて満足した。どこにでもいそうな男性の将
来に対する不安や悩みが、表面的には面白可
笑しく描かれているが「1960年代のアメリ
カヒューマンコメディ映画の世界」という謳
い文句の通り、舞台美術も往年のスター、監
督写真が飾られた雰囲気のある室内を作り上
げられていた。(滝澤一雄)★CoRichより
掲載させていただきました)